留学先を探す:グラスゴー大学へのポジション獲得まで

留学

前回、研究者として留学することを決意するまでの道のりをお話ししました。今回は、具体的にどのように留学先を探し、グラスゴー大学でのポジションを獲得するに至ったかについて書きたいと思います。

大学医局のキャリアと留学の壁

大学医局でのキャリアの大きな魅力の一つに、海外留学の機会があります。多くの医局では長年交流のある海外の研究室があり、そこへの留学の道が開かれています。

しかし、私の所属する総合診療科は比較的新しい診療科です。総合診療関係の研究で留学する例はまだまだ珍しく、既存の流れに頼ることはできませんでした。自力で留学先を開拓する必要がありました。

最初の選択肢:日本医師会のフェローシッププログラム

学生時代から知っていた先輩が、日本医師会が提供する武見フェローというプログラムを利用してハーバード大学に留学していました。たまたま先輩が一時帰国されていたので、お話を伺う機会をいただきました。

とても非常に魅力的なプログラムであり、ハーバードに留学することに憧れの念を抱いたのも正直なところでした。しかし、「ハーバードに行くことが、自分の研究テーマを深めるために最適な選択肢なのか?」という疑問も同時に抱きました。

運命の出会い:NAPCRG学会でのネットワーキング

そんな中、NAPCRG(North American Primary Care Research Group)というプライマリケア系の国際学会に何年か連続で参加していました。私の研究テーマはマルチモビディティ(多疾患併存)なので、同じテーマで発表している研究者たちと交流する機会がありました。

スコットランドのマルチモビディティ研究グループ

学会で知ったのは、スコットランドやアイルランドのいくつかの大学が協力して、マルチモビディティのPHDコースを運営しているということでした。そこの大学院生たちは、卒業までに3本の原著論文をパブリッシュしなければならず、すごい勢いで研究を進めていました。学会のマルチモビディティ関連の発表のほとんどが、彼らのグループから出されていました。

Frances Mair教授との出会い

その中で、特に親身に話をしてくださったのがグラスゴー大学のFrances Mair教授でした。Mair教授はマルチモビディティ研究の第一人者で、最近グラスゴー大学のSchool of Health and WellbeingのHeadにも選ばれた素晴らしい先生です。

学会でお会いした際、思い切って尋ねてみました。「将来留学を考えているのですが、グラスゴー大学で受け入れていただける可能性はありますか?」

Mair教授は「ファンディング(資金)の問題はあるけれど、もし本当に来たいなら連絡してね」と言ってくださいました。この言葉が、イギリスでの研究留学を目指すきっかけとなりました。

他に検討した選択肢

グラスゴー大学以外にも、いくつかの選択肢を検討しました。

アメリカ:オレゴンでの可能性

知り合いのツテをたどって、アメリカで研究する道も考えました。オレゴンの研究者たちとも交流ができ、山下大輔先生もいらっしゃるオレゴンでの留学も選択肢の一つでした。

エディンバラ大学の可能性

研修医4年目に、日本プライマリ・ケア連合学会の交換留学制度を利用してエディンバラで臨床実習をさせていただいた際に知り合った先生にも、留学先について相談しました。

ちょうどエディンバラ大学にも、Stewart Mercer教授というマルチモビディティ研究の第一人者がいらっしゃり、紹介していただきました。Mercer教授もとても親身に相談に乗ってくださいました。

エディンバラ大学への留学も真剣に検討したのですが、残念ながらMercer教授がもうすぐ退官されるということで、受け入れていただくのが難しいという結論に至りました。

グラスゴー大学でのポジション獲得への具体的な道のり

学会でMair教授と出会い、口約束で「留学は歓迎するよ」と言っていただきましたが、実際に実現させるまでにはいくつかのプロセスがありました。

最初の壁:連絡がつかない

まずMair教授に連絡を取ろうとしたのですが、やはりとてもご多忙な方なので、なかなかメールの返信がありませんでした。正直、諦めかけていました。

突破口:Bhautesh Jani講師との連絡

そこで、Mair教授のもとで講師として働いているBhautesh Jani先生にも連絡してみました。彼は学会の際にも非常にフレンドリーに話してくれた方で、その後も私の論文の内容をグラスゴー大学のグループが運営しているブログ(International Multimorbidity Blog)で紹介してくれるなど、交流がありました。

結果的に、Jani先生が留学について親身に相談に乗ってくれました。そして最終的に、「無給のポジションでもよければ受け入れる」とおっしゃってくださいました。

ワンポイントアドバイス:ナンバーツーとの関係構築

ここで学んだ重要なポイントをシェアします。

研究室のボス(教授)との面識は非常に重要ですが、著名な先生ほど多忙で、いざとなると連絡がつかないことがあります。実務的な連絡を担当してくれそうなナンバーツーの人とも関係を築いておくことが重要です。

無給ポジションか有給ポジションか

留学先を探す際、多くの人が気になるのがポジションの性質だと思います。

無給ポジションの現実

基本的には、無給であれば多くの研究室が受け入れてくれると思います。日本の大学と同様、教員の有給ポジションを用意するのは非常に大変です。

よほどの業績がある場合や、その研究室に長年日本人・外国人用のポストがある場合を除き、有給ポジションを獲得するのは難しいのではないかと思います。

資金調達の方法

無給ポジションの場合、自分で国内外の奨学金に応募することで、費用負担を減らすことができます。これについては別の機会に詳しく書きたいと思います。

Honorary Research Fellowというポジション

最終的に私は、博士号も取得済みということで、Honorary Research Fellowというポジションをいただくことができました。

このポジションは5年間有効なので、留学終了後も引き続きコラボレーションできるのではないかと期待しています。

“Honorary”の意味に注意

ちなみに、”honorary”という言葉は日本語では「名誉」などと訳され、なんだか素晴らしいポジションのように聞こえますが、実際には無給のポジションであることを意味する言葉です。日本語のニュアンスとは少し異なるので注意が必要です。

大学ホームページへの掲載

このポジションをいただいてからは、グラスゴー大学のホームページの教員リストに名前が掲載されました。これは小さなことですが、正式に大学の一員として認められたような気持ちになり、嬉しかったことを覚えています。

まとめ

留学先を探す過程で学んだことは、以下の通りです:

  1. 学会での積極的なネットワーキングの重要性 – 一期一会の出会いを大切に
  2. 複数の選択肢を検討すること – 一つの道に固執しない柔軟性
  3. ボスだけでなく、実務担当者との関係構築 – 実際の手続きを進める上で重要
  4. 有給・無給の現実を理解すること – 無給でも奨学金などで資金調達は可能

次回は、ビザ取得編をお届けする予定です。イギリスのビザ申請は複雑で時間もかかりますが、その経験も共有できればと思います。

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