総合診療医として臨床をやっていると、「このケースは大変だなぁ・・・」と思うことが多々あります。そこで、「とりあえず今日の外来をしのぐ」ではなく、腹をくくってそのタフなケースに向き合うことが総合診療医の醍醐味でもあったりします。
医師が「この患者大変だなぁ」と思う一方で、特に意識せずマネジメントできる患者もいます。つまりは、ケースごとに複雑性のレベル分けが存在すると言えるでしょう。
MartinとSturmbergがこの複雑性のレベルをSimple, Complicated, Complex, Chaosの4段階に分けている。(引用1)。
●Simpleな問題:
アルゴリズムやプロトコールに沿って行えば対応できる問題.一度その対処法を学べばマネジメントが容易になるもの。
例)50歳男性の高血圧のマネジメント
●Complicatedな問題:
いくつかのsimpleな問題の組み合わせだが,相互に影響関係があり要素に分けるだけでは解決できない。問題の解決に専門家の意見や他職種との協調が必要。解決策の一般化は可能だが、シンプルな対応の寄せ集めでは対応できない。
例)65歳男性の喫煙者の肥満、高血圧、糖尿病、狭心症、うつ病のマネジメント
●Complexな問題:
complicatedな問題に加えて,時間軸や地域性も関与し個別性が高まる。一般化やパターン予測は困難で、対応方法は多様である。
例)過疎地域で独居で家族のおらず、無職で無保険の60歳男性のアルコール依存、糖尿病、高血圧、狭心症のマネジメント
●Chaosな問題:
問題群がコントロール不可能な問題を多く含み,それらが無秩序に絡み合っているため,今後の展開を予測することができない。対応法は,問題が落ち着いた後の振り返りでしか見出すことができない
例)精神発達障害があり意思決定が困難な53歳男性が、コントロール不良の糖尿病、心筋梗塞、末期腎不全があり、同居している唯一の家族である高齢の母親に進行大腸癌が見つかってしまった。
これらの分類の基となっているアイディアは、KurtzとSnowdenによって提唱されたCynefin frameworkと呼ばれる。(引用2)
●Simple(Known):因果関係がわかっており、予測可能である。Best Practiceを行う事ができる。
●Complicated(Knowable):因果が時間・場所を超えて分断されている。分析や還元によりシステムやシナリオを描くことができる。(Sense-Analyze-Respond)
●Complex:因果関係は、後になってからでないとわからず、一貫性がない。Complexさに適応するシステムが必要。
●Chaos:因果関係を見出すことができない。解決ではなく、安定化を図ることが目的となる。(Stability-focused intervention)
このCynefin frameworkで医療の複雑性を説明しようとした文献があり、非常にわかりやすく解説してあり、図もきれいなのでご参照ください。(引用3、オープンアクセス)
日本語で詳しく読みたい方は藤沼先生のまとめた文献がわかりやすいと思います。(引用4)
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