総合診療の専門性とは?

総合診療コアモジュール

総合診療医のイメージは?

 みなさんは総合診療と聞くとどんなイメージを持ちますか?「ドクターG?」「街の開業医?」「なんでも診る?」などといろいろな意見が出てくると思います。腎臓内科が「腎臓」の病気を扱う科であることが明確であるのに対し、「総合」という言葉が抽象的で曖昧な表現なのでイメージが湧きにくいのです。総合診療をどうやって説明したらいいかということに悩み続けていましたが、最近やっと自分の中で腑に落ちる説明ができるようになってきました。最近毎月のように話しているので、一度文章にしてみようと思いまとめてみました。

読んで頂けると「総合診療科」と「総合内科」は何が違うの?というよくある疑問の答えも見つかると思います。

総合診療は「コミュニティー」を診る専門医

コミュニティーとは、共通の属性を持つ人の集まりを指します。共通の趣味を持つコミュニティーや同じ職種のコミュニティーなど世の中にはたくさんのコミュニティーがあります。総合診療医は、自分の医療機関の医療圏に住んでいる住民達のコミュニティーの健康を守る専門医です。

住民には、子どもも成人、老人もいれば、男性、女性、その他のセクシャルマイノリティの人も居ます。その人達が何らかの病気や怪我をした際に適切な医療を受けられるようにするためには、臓器や年齢、性別に関わらず幅広い疾患に対応できる能力が必要です。


これは、全て総合診療医が1人で診療を完結しなくてはいけないという意味ではありません。何らかの問題を抱えている人に対してファーストコンタクトを行い、必要があれば適切な医療(大病院、専門医など)につなぐことが求められています。例えばその地域小児科医が十分に居て小児の健康問題のファーストコンタクトが担保されているのであれば小児を診ることは少なくなりますし、逆に産婦人科医が居ない地域では妊娠の判定や月経困難症などのCommonな婦人科疾患には対応する必要があります。つまり、総合診療医の役割は地域の住民の医療窓口となりながら(ファーストコンタクト)、必要な医療リソースと患者をつなぐ”ケアのコーディネーション”を行うことが求められます
また総合診療医の役割は「コミュニティーの病気」を診ることだけでなく「コミュニティーの健康」を守ることであるため、予防医療や健康増進に取り組むことも求められます。これは、個人に対して予防医療を勧めたり健康な生活を送るためのアドバイスをするだけでなく、集団レベルでの健康問題(喫煙率が高いなど)に取り組んだり、コミュニティー全体での検診や予防接種を推進することも含まれます。

システム思考に基づくアプローチ

システムとは、互いに影響し合う要素が集まって何らかの働きをしているものを指します。システム思考とは、一つ一つの要素に分けて考える(要素還元主義)のではなく、複数の要素の関係性に注目しながら全体を見渡す考え方です。人間を構成する要素にバラバラにしていくと(還元的思考)、人間→臓器→組織→細胞というようになります。逆に人間の上位のシステムは何かと考えると(統合的思考)、人間→家族→地域→社会→地球などというように徐々に規模の大きいシステムになっていきます。

病気は、人体の中の問題であり、複数の臓器にまたがることもあるので人間と臓器のシステムの間の階層に起こります。病気が個人という上位のシステムに影響を与えてなんらかの“症状”を呈すると、病気を抱えた人となり我々医療者の前にやってきます。

「その病気がどの臓器のどのような問題に起因しているのか?(病名は?)」と考えていくのが、いわゆる臨床推論です。さらには、病気の原因の組織やサイトカイン、遺伝子などを解明していこうとするのが基礎医学の考え方であり、臓器別専門医のベースとなっているのはこのような還元的な考え方です。

一方で「その病気が、個人にどのような影響を与えているのか?」と考えるのが、いわゆる「Illness(病;やまい)」の考え方です。このどちらも大事であり、両方の方向に考えを巡らすのが「生物心理社会モデル(BPSモデル)」や「患者中心の医療の方法(PCCM)」の考え方です。
さらに「病気に影響を与える要素は個人の外、つまり家族や地域などにもあるのではないか?」と考えるのが、統合的思考であり総合診療医のベースとなる考え方です。社会医学や公衆衛生とも似ていますが、公衆衛生の対象とするのは社会や地域などの集団レベルであり個人へのアプローチを行わないことが総合診療との違いです。逆に総合診療医は、個人レベルの問題と社会の問題をつなぐ“Public Health Physician”としての役割を担っています。

 このことが分かるといわゆる「ドクターG」的な臨床推論や診断学は還元的思考なので、総合診療の本幹ではないことがご理解頂けるでしょう。

なぜ総合診療医に臨床推論を求めるのでしょうか?

 臓器別専門医の還元的思考は、臓器の階層からスタートします。そのため臓器別専門科は、目の前の患者が自分の担当する臓器の病気であることを前提とした学問であり、”まだどの臓器の問題か分からない状態(未分化な健康問題)”を扱うことは専門外なのです。それ故に診断をして、自分の担当する領域の病気だけを紹介して欲しいというのが臓器別専門医の本音であり、本来の役割でもあるわけです。

 この診断付く前の人を誰が診るか問題のひとつの解決策として期待されているのが”総合内科”です。要素還元的思考に基づいて臓器別に分化してばらばらになった各臓器別内科の知識領域を統合してできたのが総合内科です。成人の内科疾患であれば、臓器が特定されていなくても診療対象とするのが総合内科の役割です。還元的思考のスタートポイントが臓器ではなく病気というレイヤーに上がったため、そこから還元的思考で臨床推論を行うため診断学が武器であり大きな特徴なのです。

 一方で総合診療医は上で述べたように患者と医療をつなぐ役割を担っているので、病名がつかない未分化な健康問題を解き明かし、適切な医療につなぐために臨床推論を使います。それと同時に総合診療医として重要なのはその病気によって患者がどのように困っているかという”個人のレイヤー”の問題なので、診断名がつかない状態(不定愁訴など)であっても困りごとにフォーカスして寄り添うことができるのです。

 つまり、総合内科も総合診療医も未分化な健康問題に対して臨床推論・診断学を扱うことは共通しているが、総合内科は還元的思考をベースとした学問であり、総合診療は統合的思考を特徴とした学問である点で全く異なる学問体系であるということです。

総合診療の専門性 

「総合診療には専門性はあるのか?」と質問すると、多くの人が「???」となってしまいます。それは、総合診療(ジェネラリスト)と臓器別専門医(スペシャリスト)は対局にあり、専門性と総合診療医は相反する概念なのではないかと感じてしまうからです。専門とは、「他の人にできないことを自分ができる」ことを指します。総合診療専門医が19番目の“専門医“として国に認められたからには、何らかの専門性を有するはずです。では、総合診療の専門性とは一体何なのでしょうか?

図のように総合診療医と臓器別専門医の対比がなされることがよくあります。臓器別専門医は特定の領域に特化した専門家で、その領域の高い専門性(まれな疾患や難しい治療ができる)を有している。一方で総合診療医は、稀な疾患や難しい治療はできないが、臓器に関わらず幅広く診療を展開できることが特徴である。(暗に総合診療医は専門性は低いと言っている)

しかしながら、総合診療医は上で述べたように「コミュニティーの健康を守る専門医」であり、「システム思考」を武器として統合的視点で医療を提供できることにおいて高い専門性を発揮できます。つまり、従来の「稀な疾患や難しい治療ができる=専門性」という価値観では測れない方向に(別の次元に)総合診療医の専門性は広がっているのです。その方向には、統合的視点で病気だけでなく個人の抱える心理的問題や社会的問題についても考えるBPSアプローチや、家族思考のケア、地域コミュニティーへのアプローチなどが含まれています。(これが総合診療のコンピテンシーにつながる。別の記事参照)なので、別の価値観の存在を認めないと総合診療の専門性を理解することができないのです。これが最も「総合診療」への理解をややこしくしている原因なのではないかと思っています。

このように総合診療は専門性があり、独自の学問として成立しうる領域なのです。だから、興味を持った学生や研修医の皆さんは安心して総合診療の道に進んできてください。

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