「不都合多いおひとりさま患者」

医学教育

不都合多いおひとりさま患者

先日の僕の勤務する大学の医・薬・看の三学部合同授業では、「おひとりさま患者」をテーマに扱いました。

実際に患者さんをお招きして、登壇頂き患者体験を語ってもらいその後スモールグループでディスカッションを行いました。

以下が患者さんが語ってくれた経験(概略のみで、細部は異なるかもしれません。)

おひとりさま患者の癌告知

患者さんは未婚の女性。両親は、遠方に在住でやや疎遠。

仕事に邁進していた40歳で乳癌に罹患した。

検査の結果を聞きに行くと担当医に「次回は家族を連れてくるように」と言われ、

自分のことなのになぜ家族を連れてくる必要があるの?・・・と疑問に。

両親も遠方で、家族を連れてこれない旨を伝えると「じゃあどうするの?」と言われて、戸惑う。

家族がいないと治療してもらえないのかと思い、その後病院受診せずに乳癌を放置してしまう。。。

特に症状もなく困らなっておらず、ちょうど転職したタイミングで仕事が多忙なため、そのまま放置が続いてしまう。
そのうち「あれはきっと夢だったのだ」と病気を否認してしまう。

3年ほどして、病変部が自壊して出血しだしてやはり乳癌であることを認めざるを得なくなる。

仕事で知り合った医師に紹介してもらい病院受診。

手術が必要だと言われるが、手術する気にならずホルモン治療開始。

ホルモン治療に反応し病変が縮小。しかし副作用が気になり自己判断で休薬してしまう。

その後再度病変が拡大し、手術に踏み切る。

おひとりさま患者の入院体験記

手術のために入院するが、そこで再度お一人様の不便さに気づく。

手渡された入院案内には、タオル数枚、数日分の着替えを持ってくるように記載がある。

入院後に家族などが洗濯してくれることを前提の用意であることに気づく。

結局洗濯できないため、レンタルの病衣やタオルを借りる。

入院前に案内してくれれば、スーツケースいっぱいの荷物を持ってこなくて済んだのに・・・

術後ICUに入ると、ICUは付添不要と書いてあったが「貴重品は家族にあずけてください」と言われる。。。。

結局看護師が管理してくれたが、ここでも家族がいること前提のシステムに遭遇し不便さを実感。

最後退院する際に看護師に「お迎えは何時に来ますか?」と聞かれる・・・

「迎えに来る人はいません」と答えるが、退院の際にまだ術後で体調が万全でない中荷物を抱えて変える大変さを実感。

おひとりさま患者の体験を聞いて医師として考えたこと

ということで、「おひとりさま」であるがゆえに大変な思いをしてしまった患者さんの体験談を共有していただきました。

問題点を整理すると

  • 病状説明に家族が必要
  • 家族がいることが前提の入院体制(物品、お迎えなど)

ということになるかと思います。

病状説明に家族を呼ぶ慣習

これは、医師側の心理からすると2つの理由があると思われます。
①病状説明後の心理サポートを家族にしてもらいたい
②本人の病状が深刻であることを家族に伝えて、リスクを告知しておきたい。

特に②の理由は大きいと思います。日本では、まだまだ患者本人の自己決定権よりも家族の同意が重視される風潮があります。本来なら家族に話すかどうかも本人に決定権があるはずですが、そこは無視され家族に先に告知されることもまだまだ珍しくはありません。

また、「死人に口無し理論」で家族の同意が一番大事だと言う医師も少なくないでしょう。

このあたりは患者本人の意思決定能力があれば、本人の自己決定権を尊重していくように文化が変わって行けばいいですね。

家族ありきの入院体制

着替えの問題や退院時の荷物に関して家族がいることが前提になっているのは、医療者としてあまり意識していなかったのではっとしました。

現場の看護師さんは、普段からこういうケースに対応していると思うので入院説明時に家族の対応が可能かどうか聞けるように配慮できるといいですね。

緊急連絡先に誰を書くか

身寄りのない高齢者などの入院では、Key personが決まらなくて困ることがあります。成年後見人制度は、迅速な対応はできないですし、現行の制度では医療同意は含まれていません。

本人が代理人を指名することができるLiving willも日本ではまだ制度としては確立していません。

そもそも家族以外で生き死にを左右する選択を頼める人ってなかなかいないし、逆の立場でもなかなか引き受けるのは難しいですよね。

この辺は法整備や制度の確立が必要そうです。

医療における家族の役割

学生のディスカッションを聞いていて、家族の役割は大きく3つに分けられるのではないかと感じました。

①身体的・物理的なケアを担う役割
②心理的なサポートをする役割
③代理意思決定をする役割

学生のディスカッションの中で、家族の代わりをする人を紹介するサービスを提供すればいいのではという意見が出てました。

たしかに①の身体的ケアや手伝いに関しては、他人によるサービスで賄えそうです。

実際に介護保険はこの役割を果たしているので、介護保険が使えない人たちには何らかの形でこのようなサービスを提供する必要がありそうです。

②の心理的サポートはどうでしょうか。

単に他人をあてがうだけでは難しそうですね。
専門職としてのカウンセラーや同じ経験をしている患者会などは、他人でもこの役割をしてくれそうです。

③代理意思決定の役割

これは上で書いたように簡単に赤の他人が担えるものではないので、法律や制度の整備が必要ですね。

生涯未婚率が高くなりこのようなケースは稀ではなくなっている世の中なので、家族がいるのが当たり前という概念を捨てて対応しなければいけないですね。

多様性が広がる世の中で、いろいろな当たり前を排除して対応するのはなかなか難しいですがこうやって上げてくれた声に耳を傾けて少しずつ誰もが受けやすい医療を目指していくしかないですね。

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