女性化乳房 Gynecomastia

最近女性化乳房をきたした患者さんと遭遇することが多いのでまとめてみました。
NEJM, BMJ, American Family PhysicianのReviewを参照しています。

【女性化乳房とは】
男性にも少量存在する乳腺組織がエストロゲンやプロゲステロンの影響で増大し、乳房が増大している状態

【生理的女性化乳房】
新生児期、思春期、50歳以上の3つの年齢層で生理的女性化乳房が見られる。
■新生児期
新生児期は、胎盤を通して母体から移行したエストロゲンの影響でおこり、通常は数週間で自然に改善する。

■思春期
思春期の男性(典型的には13-14歳)の半数が女性化乳房を経験する。遊離テストステロンの産生が増えることにつられてエストラジオールの毛中有濃度が上がることで女性化乳房を呈する。通常は自然に軽快するが、本人が気にして精神的ストレスとなる場合などには治療も考慮される。

■壮年期
50歳を超えてテストステロンの産生が落ちると女性化乳房を呈する。とある研究だと50-85歳の入院患者を診察すると65%で女性化乳房を認めたと報告されている。

【病的な女性化乳房】
■思春期の女性化乳房が持続する場合
通常は思春期の生理的女性化乳房は半年〜2年以内に改善する。2年を超えて持続したり、17歳以降にも認める場合には精査が必要である。処方薬やサプリメントなどによる薬剤性やホルモン異常を考慮する。

■薬剤性女性化乳房
有名なものは、スピロノラクトンだが多くの薬剤で女性化乳房の報告がある。
<抗アンドロゲン作用のある薬剤>
Alkylating agents, Bicalutamide, Cimetidine, Cisplatin, Flutamide, Isoniazid, Ketoconazole, Marijuana, Methotrexate, Metronidazole, Omeprazole, Penicillamine, Ranitidine, Spironolactone, Vinca alkaloids
<エストロゲン作用のある薬剤>
Anabolic steroids, Diazepam, Digoxin, Estrogen agonists, Estrogens, Gonadotropin-releasing
hormone agonists, Human chorionic gonadotropins,  Phenytoin, Phytoestrogens
<アンドロゲンの代謝を促進する薬剤>
アルコール
<高プロラクチン血症を起こすもの>
Haloperidol, Metoclopramide, Phenothiazines
<その他機序不明な薬剤>
 Amiodarone, Amlodipine, Amphetamines, ACE inhibitors, Antiretroviral agents, Atorvastatin, Didanosine, Diltiazem, Etomidate, Fenofibrate, Finasteride, Fluoxetine, Heroin, Methadone, Methyldopa, Minocycline, Minoxidil, Mirtazapine , Nifedipine, Nilutamide, Paroxetine, Reserpine
Risperidone, Rosuvastatin, Sulindac, Theophylline, Tricyclic antidepressants, Venlafaxine, Verapamil

■肝硬変
肝機能が低下するとエストロゲンの分解能が低下して、抹消のエストロゲン濃度上昇により女性化乳房を起こす。アルコールは、テストステロンの産生も抑制するためアルコール性肝障害では女性化乳房をきたしやすい

■一次性性腺機能低下 Primary hypogonadism
Klinefelter症候群などにより女性化乳房をきたす。

■甲状腺機能異常
甲状腺機能亢進症では、性腺ホルモン結合グロブリンが増加し、遊離テストステロンが減少する。これにより女性化乳房をきたすことがある。甲状腺機能が正常化すると改善する。

■慢性腎障害
腎不全により尿毒症となるとテストステロン産生が抑制され、女性化乳房をきたすことがある。

■性ホルモン産生腫瘍
エストロゲンを産生する精巣腫瘍(Sertoli cell tumorやLeydig cell tumorなど)やhGC産生主要などでは、エストロゲンの増加により女性化乳房をきたす。女性化乳房を呈した男性の3%に精巣腫瘍を認めたという報告もある。また、異所性のhCG産生腫瘍やChoiocarcinomaも女性化乳房を呈することがある。

■肥満
肥満は、Pseudogynecomastia(偽女性化乳房)を呈することが多いが、肥満によりれレプチンとアロマターゼ活性が上昇することでエストロゲン上昇をきたして女性化乳房をきたすこと丸。

■その他
潰瘍性大腸炎、Cystic fibrosis, Refeeding syndromeなどは女性化乳房の報告がある。

【アプローチ】
1.女性化乳房の原因となる薬剤はないか?
→被疑薬の中止を考慮

2.診察
・肥満による偽女性化乳房を除外
・硬結の位置や可動性などから乳がんを疑う場合は乳腺外科へ紹介
・精巣腫瘤がないか

3.検査
・肝機能、腎機能、甲状腺機能をチェック
・hCG、LH、FSH、エストラジオール、テストステロン、プロラクチンをチェック

【治療】
・生理的女性化乳房であれば、経過観察
・被疑薬があれば、薬剤中止をしながら経過をみる
・背景疾患があれば原疾患の治療

生理的もしくは特発性の女性化乳房で治療を希望するようであれば薬物治療(Tamoxifen、Bicalutamide, Danazolなど)

薬物治療不応性であれば、外科的切除も考慮される。

【参考文献】
N Engl J Med. 2007 Sep 20;357(12):1229-37.
BMJ. 2016 Sep 22;354:i4833.
Am Fam Physician. 2012 Apr 1;85(7):716-22.

最近診た症例では、スタチンしか内服薬がなくて特発性かと思っていましたが調べてみるとスタチンでも報告があるようですね。症例対照研究では、スタチンの使用歴があるだけで女性化乳房の相対危険度が上がるようです。(Clin Endocrinol (Oxf). 2018 Oct;89(4):470-473.)

やはり何事も調べてみることが大切ですね。

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