他科からのコンサルテーションで、40代女性の手術後に発症した倦怠感の患者で「慢性疲労症候群を除外してくだい」というなんとも言えない依頼が来ました。慢性疲労症候群って診断する意義があまりないかと思ってちゃんと調べたことがなかったので、AFPのReviewを中心に勉強してみました。
まとめ
・慢性疲労症候群は除外診断
・治療は認知行動療法と
疫学
女性の方が2倍罹患しやすい.1)
発症年齢は、平均35歳でまれに10代の患者も見られる。
比較的裕福で高学歴なバックグラウンドを持った人に多い2)
原因
ウイルス感染による後遺症という仮説が有名であり、リスクとなる遺伝子を同定する研究も行われているが確固たる原因はまだ判明していない。うつとも関連があり、幼少期のトラウマ体験が発症のリスクと成ることもしられているため、心理社会的な要因も関連していると考えられている。その他下垂体-副腎の機能低下や睡眠や栄養との関連も示唆されている。
診断
基本的にはCFSの診断は、他の倦怠感を起こす疾患を除外していくという除外診断になる。
除外すべき鑑別疾患
AFPのReviewには、次の疾患が除外すべきリストとして挙げられている。
1)より引用
かなり幅広い疾患が挙げられているため、これらのリストを念頭に詳細な問診と診察をする必要がある。
日本の診断基準
日本でのCFS診断には厚生労働省の研究班がHolmes診断基準を基に1991年に作成した基準が用いられている。3)
A.大クライテリア(大基準)
1.生活が著しく損なわれるような強い疲労を主症状とし、少なくとも6ヶ月以上の期間持続ないし再発を繰り返す(50%以上の期間認められること)。
2.病歴、身体所見.検査所見で表2に挙げられている疾患を除外する。
B.小クライテリア(小基準)
ア)症状クライテリア(症状基準)(以下の症状が6カ月以上にわたり持続または繰り返し生ずること)
1. 微熱(腋窩温37.2~38.3℃)ないし悪寒
2. 咽頭痛
3. 頚部あるいは腋窩リンパ節の腫張
4. 原因不明の筋力低下
5. 筋肉痛ないし不快感
6. 軽い労作後に24時間以上続く全身倦怠感
7. 頭痛
8. 腫脹や発赤を伴わない移動性関節痛
9. 精神神経症状(いずれか1つ以上) 羞明、一過性暗点、物忘れ、易刺激性、錯乱、思考力低下、集中力低下、抑うつ
10. 睡眠障害(過眠、不眠)
11. 発症時、主たる症状が数時間から数日の間に発現
イ)身体所見クライテリア(身体所見基準)(2回以上、医師が確認)
1. 微熱
2. 非浸出性咽頭炎
3. リンパ節の腫大(頚部、腋窩リンパ節)
◎大基準2項目に加えて、小基準の「症状基準8項目」以上か、「症状基準6項目+身体基準2項目」以上を満たすと「CFS」と診断する。
◎大基準2項目に該当するが、小基準で診断基準を満たさない例は「CFS(疑診)」とする。
◎上記基準で診断されたCFS(疑診は除く)のうち、感染症が確診された後、それに続発して症状が発現した例は「感染後CFS」と呼ぶ。
表2
悪性腫瘍
自己免疫疾患
限局性感染症(潜在膿瘍など)
急性・慢性細菌性感染症(心 内膜炎,Lyme病,結 核な
ど)
真菌性感染症(ヒ ス トプラズマ症,分 芽菌症,コ クシ ジオイデス症など)
寄生虫感染症(ト キソプラズマ病,ア メーバ症,ラ ン ブル鞭毛虫症,蠕 虫症など)
HIV感染症
精神疾患(う つ病,ヒ ステリー,神経症,分裂病,向精神薬副 作用 な ど)
慢性炎症性疾患(サ ルコイドーシス,Wegener肉芽腫,慢 性肝炎など)
神経筋疾患(多発性硬化症,重症筋無力症など)
内分泌 疾患(甲状腺機能低 下症,Addison病, Cushing
症候群,糖尿病 な ど)
薬物嗜癖(アルコール,麻 薬など)
中毒(溶剤,殺虫剤,重金属など)
その他の慢性疾患(呼 吸器, 心臓,消化器,肝臓,腎臓,血液疾患)
治療
認知行動療法
疲労を生じることを恐れて活動を制限していることが多いので、疲労感と行動に関する認知行動療法が有効である。実際に効果を証明したRCTもいくつかあり、2008年のCochrane reviewでも有効性を支持する結果になっている。4)
運動
Graded exercise therapyと呼ばれる徐々に運動量を増やしていく手法は、CFSに対して有効である。
薬物治療
CFSに対して有効な薬物治療は確立されていない。不眠やうつなどの個別の症状に対してアプローチして薬物治療を行うのは有効かもしれない。
メチルフェニデート、メラトニン、シタロプラム(うつ症状の無い患者)、ガランタミンなどは、効果がなかったという研究が出ている。1)
コメント