COVID-19におけるACEiとARBの影響について

EBM

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にACE2(アンジオテンシン変換酵素-2)が関与しているのではないかという報告があります。

その情報を受けてACE阻害薬(ACEi)やARBの内服が、COIVD19の重症化に関わるのではないかという議論がされています。
次のような一般人向けのサイトにも情報が載ったりしています。
”もしや新型コロナ? 疑われる自宅療養時に気をつけるべきことは
安全な解熱剤は? 降圧剤は飲んでいい? など留意点を一線の医師に詳しく聞いた”
ACEi/ARBは内服している患者も多いので、患者さんに聞かれたらどうしようかなと思っていました。
この議論に関して、2020年3月30日にNEJMにSpecial Reportが乗りました。

Renin–Angiotensin–Aldosterone System Inhibitors in Patients with Covid-19

現時点でのエビデンスを集約した総説になっています。
時間がない人は最後のまとめを読んでください。

【ACEi/ARBの作用機序】

ACEi、ARBの作用機序をおさらいしておくと
図ののようにAngiotensinⅠ→Ⅱに変換するのがACE(アンジオテンシン変換酵素)
AngiotensinⅡが受容体に結合するのを阻害するのがARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)
このようにRAA(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン)系のアンジオテンシン変換と受容体への結合を阻害することで降圧効果・心蔵保護・腎臓保護効果が得られる。
今回新型コロナウイルス感染症で注目されているのは、”ACE2”で上記に出てくるACEの仲間ですが作用が少し異なる。

【ACE2とは?】

ACE2は細胞膜上に存在しAngiotensinⅠとⅡを分解し、(主にAngiotensinⅡの分解によって)血管収縮やナトリウム貯留、線維化を緩和すると考えられている。

ACE2は、心臓、腎臓、肺など様々な臓器に分布していることが知られている。
SARSウイルスの研究で、このACE2を介してウイルスが細胞内に侵入することが分かっていた。(日本語の論文はこちら

その後、新型コロナウイルス (SARS−Cov-2)もSARSウイルスと同様にこのACE2を介して細胞内に侵入することが分かってきた。

【ACEi/ARBがACE2にどう影響する?】

ACE2はACEとは異なるため、ACE阻害薬はACE2の作用を直接阻害は出来ない
ACE2は、主にAngiotensinⅡの分解を担っているためAngiotensinⅡの濃度によってACE2の活性や発現量が変化すると考えられている。
ACEiとARBは、RAA系においてブロックする部位が異なるためACE2の活性や発現量に与える影響は異なると予想される。
■動物実験
ACEiがACE2に与える影響は、動物実験の結果は様々で現時点でどう影響するかという結論はでいない。ARBは、ACE2の発現量を上げる可能性が示唆されているが、こちらも動物実験の結果は一定していません。
■人間の研究
人間での研究でも、ACEiやARBがACE2の発現量が増えることを示唆する結果もあるが、それを否定する研究もあり結論は出ていない。

要するにACEiやARBがACE2の発現量を増やすのか減らすのかは分かっていない。

【ACE2はCOVID19においてどう働く?】

上述の通り、ACE2は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が細胞内に侵入する際の足がかかりとなっていると考えられている。
一方で、COVID-19においてAngiotensinⅡが組織障害に関与していることも示唆されており、AngiotensinⅡを分解するACE2はCOVID-19における組織障害を抑制する可能性もある。
SARSウイルスの動物モデルでは、RAA系の抑制が急性肺障害を抑制することが示されている。インフルエンザやRSウイルスの研究でも、ACE2が肺障害を緩和することも示唆されている。
以上からRAA系の抑制が、臓器障害を抑制するかのうせいがあり、COVID-19患者においてARB(ロサルタン)を投与して効果をみる研究もスタートしている。
(研究計画はこちらから見れます:NCT04312009, NCT04311177

【ACEi/ARBを中止することのデメリット】

ACEi/ARBは、腎臓や心筋に対して保護作用があり、心不全、虚血性心疾患、CKD患者では利益が大きいことは知られている。
特に心不全患者でACEi/ARBを中止すると状態が悪化することが示されている。
心疾患、CKDがなく高血圧に対してACEi/ARBを内服している患者で、服用を中止することのデメリットはそこまで大きくないとは考えられるが、降圧薬の変更により血圧が不安定になることは短期間でも心血管リスクの上昇に繋がる。

【まとめ】

現時点で分かっていることは
・ACE2が新型コロナウイルスの感染成立に関与している(ACEとACE2は違う)
・ACEi/ARBがACE2の発現に与える影響は不明
・むしろRAA系の阻害が、COVID-19の臓器障害を緩和する可能性があり臨床試験中
・ACEi/ARBを(とくに心疾患患者において)中断することのデメリットがある

【Uptodateの記載】

Uptodateの降圧薬の選択に関する項目

でも”What’s new”として、COVID-19感染患者においてむやみにACEi/ARBを中断しないようにと記載が追加されていました。

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