自殺企図のある患者の評価とマネジメント
AFPの今月のReviewが”The Suicidal Patient: Evaluation and Management”でした。
ちょうど2020年の日本での自殺者が増加したというニュースもあり、大事なトピックだと感じたので読んでみることにしました。
2020年は自殺者が増加
2020年の日本の自殺者数は、21081人で前年より1000人近く増えました。
日本の自殺者数は平成15年の34427人をピークに減少傾向で、特にここ10年は減少が続いており久しぶりに増加に転じた。男女っ別でみると男性は変わっていないが女性の自殺者が特に増加している。
自殺の原因
自殺の要因についても統計が出ており、1番多い理由は健康問題である。ついで家庭と仕事の問題が多い。健康問題の内訳をみてみるとうつ病が最も多く、その次は身体疾患に関する悩みである。
2020年は自殺者がなぜ増えた?
原因別の増減をみてみると、経済・生活問題や勤務問題は減少しており、男女問題や学校問題、健康問題が増えている。健康問題の内訳別にみるとうつ病とその他の精神疾患が増加している。男女問題では不倫の悩みが増加している。学校問題では、進路に関する悩みが増加している。
この原因別を見てみるとコロナ禍で自殺者が増えた理由が垣間見える。意外と失業などによる経済・生活問題での増加は起こっていない。むしろ対面での交流の低下や先行きが見えないことでのうつやメンタルヘルスの不調、経済悪化による就職活動の不安などの要因が大きそうだ。
自殺のリスクファクター
自殺のリスクには、生物学的なリスク(年齢、性別、人種など)だけでなく環境的リスク、心理的リスクが有る。環境的リスクとしては、周囲に自殺をする手段がある(毒物や刃物など)ことや人生の変化がある。心理的リスクとしては、不眠、孤独、精神疾患の既往などがある。これらのリスクをどれくらい患者が有しているかを問診で把握する必要がある。
自殺リスクの問診事項
- 死ぬことや自分を傷つけることについて考えていますか?
- 具体的な自殺方法を持っていますか?(銃、刃物、毒、薬など)
- 自分を傷つけることを実際に行おうと思っていますか?
- あなたや家族が過去に自殺を試みたことがありますか?
- 飲酒や薬物を使用していますか?
- 悩みを相談できる友人や家族はいますか?
- どのように自分を傷つけるか具体的な方法を考えていますか?
- 自殺を思いとどまらせている何でしょうか?
- 今後の人生の計画は?
- あなたや家族で不安や鬱などの精神疾患の診断を受けている人はいますか?
- 最近職場や家族など社会生活の変化はありましたか?
- あなたはなにか衝動的に行動をするタイプですか?
自殺企図患者の急性期マネジメント
自殺を考えている患者に対してはまず
- 今自殺をするつもりがあるか
- 具体的な方法を考えているか
の2つも質問をして、どちらかがあれば入院治療を考えて精神科へコンサルトする。
どちらもない場合は、外来マネジメントを考慮する。その際には、死にたくなった時の対処法、頼るべきリソースを伝えると自殺や入院を減らす事ができる。
本人の許可が得られれば、家族や友人などにも事情を伝えて患者の安全を見守ってもらうように依頼するとよい。
死なない約束は意味がない
患者さんに「次の外来まで自殺しないことを約束できますか?」と聞いて、自殺しないことを約束してもらうという方法が教えられます。実際にこの方法は広く広まっていますが、最近は効果が無いことや逆効果である可能性があることが知られています。
薬物治療
単極性/双極性気分障害、不安障害がある患者では、リチウムが自殺企図と死亡率を低下させる。
精神病症状がある場合は、クロザピンが有効だが無顆粒球症などの副作用もあるため最後の手段として使われる。
青少年や若年者でのSSRI使用は、自殺リスクを高める可能性があるので注意する
抗うつ薬などの過量内服をする可能性もあるので長期処方せずこまめに外来フォローする
自殺をした人の家族や友人のケア
自殺者の家族や友人は、多大なストレスにさらされ、死別反応や病的悲嘆のリスクがある。特に自殺の場合は周囲の人は自分たちの責任を感じることが多い。家族や周囲の人達への心理的サポートを提供したり、必要なリソースの情報を伝える必要がある。
また、担当患者が自殺した場合は担当医自身も責任を感じ、その後の気分障害につながる場合もあるのでカウンセリングなどのサポートを用意しておく必要がある。
まとめ
この文献で僕が役に立ったポイントは
- 自殺を企図した患者には、医学的、環境的、心理的アセスメントが必要
- 現時点での積極的自殺企図や具体的な方法を考えている場合は入院
- 外来にする場合は、自殺しない約束は無効で、セルフマネジメントやクライシスプランニングが大事
- リチウムが自殺の予防には有効
- 自殺者の周囲の人のケアや担当医のケアも重要
ということです。
総合診療医として、救急外来などで自殺企図のある患者を診る場合や自分の普段の外来患者が悩んでいる場合もあると思うのでそっと手を差し伸べられる様になりたいですね。
1人でも自ら命を絶つ人が減りますように…
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