COVID-19に対するデジタル接触追跡アプリ

公衆衛生大学院の授業で、COVID-19の感染対策におけるデジタルツールについて議論するために下調べをしてみました。成功事例として台湾が取り上げられていたので少し調べてみました

台湾のマスクの在庫見える化アプリリ

台湾は、COVID-19の流行に伴いマスクが不足することを見越して非常に早い対応を行いました。マスクの実名制購入を実現するために、各薬局のマスクの在庫がひと目で分かるアプリを開発。その開発スピードが凄まじく、48時間で開発してリリース。そしてオープンソースで公開することで、民間プログラマーもプログラムの改善に参加。

Where to buy face masks? Survey of applications
using Taiwan’s open data in the time of
coronavirus disease 2019
 

オープンソースにした効果で、政府の公式アプリ以外にも民間アプリなども開発されていた様子です。  マスク製造機械を政府が購入し、国内企業に生産を委託し、政府が買い取る仕組みでマスクを増産しました。 生産体制が整うと配布枚数を増やし、ちゃんとマスクが手に入るという安心を国民に提供しています。 実名販売制を実現させた背景には、全国民のID番号の交付(日本のマイナンバー制度と同じ)が実現していたことが大きいです。

 詳しくはこちらのページを参照台湾「マスク・ポリティックス」に見るコロナ時代の危機管理

デジタル接触追跡アプリ(Digital Contact Tracing App) 

日本でも厚生労働省が、新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA; COVID-19 Contact-Confirming Application)を発表しました。 デジタル接触追跡を用いると、接触者の早期同定・早期隔離が可能になり、感染者を減らせるのではないかという数理モデルがScienceに載ったこともあり、世界各国で同様のアプリの導入が行われています。 (Quantifying SARS-CoV-2 transmission suggests epidemic control with digital contact tracing(Science. 2020 May 8;368(6491):eabb6936.)

Science

このようなデジタル接触追跡アプリについてまとめた文献があったので、読んでみました。

 Digital contact tracing for COVID-19(CMAJ June 15, 2020 192 (24) E653-E656;) 

従来の接触者調査

従来の方法では、保健所の職員などが感染者に過去の行動と接触者を調査し、接触者に対して症状の観察や自己隔離を指導していました。 この方法の問題点としては、

  • かなり人的資源を要する
  • 接触者の同定に時間がかかる
  • 思い出しによるエラー(Recall error)

が挙げられます。 今回のCOVID-19のように感染が爆発的に増えると、保健所の人員だけでは接触者調査の人では足りなくなり、各地の保健所のキャパシティを超えていたことが問題でした。 

 テクノロジーを利用した接触追跡

 テクノロジーを利用した接触追跡には、いくつかの方法があります。

 ①強制的な方法中国や韓国では、接触者の同定のために監視カメラの映像や感染者の電子決済の情報、携帯電話の位置情報を入手しています。これらは、感染者の行動を明らかにするには重要な情報であり、思い出しのエラーを少なくすることができるが、個人情報の観点からは問題が多い方法です。

 ②任意参加の方法携帯アプリの利用などにより、オプトイン(任意参加)方式で同意の問題をクリアしています。一方でアプリの有用性は、利用率に大きく依存するため利用率向上が課題となります。 

用いられているテクノロジー

日本のCOCOAは、Bluetoothという無線通信機能を用いています。Blutoothを用いたアプリは接触者との距離、接触時間を記録することができます。カナダ、オーストラリア、シンガポール、フランス、スイスなどで同様のアプリが採用されています。 他の方法としては、Wifiの利用履歴、GPSの利用履歴を用いて利用者の位置情報を割り出す方法があります。 また、中国では、バスや店舗の入り口にQRコードが掲示されており、それを利用者が読み取ることで位置情報のログが取られる方法も使われています。 また、AppleとGoogleが共同でアプリではなくOSの機能として接触追跡の機能を搭載する計画があり、アプリのダウンロードが不要なので利用率上昇が期待されています。(機能をオンにするには同意が必要) 

アプリの限界

  1. スマホ使用率・アプリ利用率に依存する
  2. 位置や接触の測定精度の問題
  3. アプリのバックグラウンド動作
  4. 個人情報保護とのバランス
  5. 有効性が未証明

 任意での利用のアプリではどうしても利用率が低くなることに加えて、そもそもスマホの普及率も国や年齢によって異なります。 測定精度の問題もまだ課題として残っており、例えば医療者が防護具をつけて陽性者の診察 をした場合も接触とみなされてしまうという問題もあります。 アプリケーションをバックグラウンドで常に起動させておくことの技術的問題やバッテリー消費が多くなり利用率が低下することも懸念されています。 

個人情報保護のストラテジー 

個人情報の保護を徹底しないとアプリの普及は進みません。特にヨーロッパでは、GDPRという個人情報保護の法律があるため大きな課題です、 個人情報の扱いに関して2つの方法があります。 

①中央サーバー管理

これは利用者をIDに紐付けた上で、移動情報を中央のサーバーで管理する方法です。情報を後に分析し、結果の精度を高める事ができますが、誰がどこにいたかを政府が知ることができてしまいます。 

②個人端末管理 

こちらは、個人の移動情報はあくまで個人の端末で管理されます。中央のサーバーには、アプリ利用者の暗号化されたIDだけが記録されます。個人の端末には、自分が接触した相手の暗号化IDが記録されます。 感染者が発覚した場合は、感染者の暗号化されたIDが通知され、個人の端末の記録にそのIDがあれば感染者との接触が分かるという仕組みになっています。 管理者側は、個人の行動の情報はわからず、誰と誰が接触したかも知ることができません。 個人情報は守られる一方で、管理者が接触者を同定したり、接触情報を分析することができません。 

日本のCOCOAは②の個人端末管理方式をとっているようです。

今後の課題

デジタル技術を用いた接触追跡は、従来の方法をよりも効率的かつ正確に接触者を同定できる可能性があります。しかしながら有用性は、利用率に依存するためいかに多くの人に使ってもらうかがキーとなります。 そして、個人情報保護とのバランスが一番の課題であり、個人情報保護に配慮しながらも役に立つ方法が考え出されています。上で挙げた情報管理の仕組みを理解していないと、「個人情報抜き取られて政府に監視される」などと誤った不安を招くことになりかねません。 

ウイルスに対してもテクノロジーに対しても正しく理解して正しく恐れるリテラシーが求められているのではないでしょうか。

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