プライマリ・ケアにおける”Safety Netting”

ひとりJournal Clubシリーズです。

今回は、プライマリ・ヘルスケア領域で2018年に一番のインパクトファクターを誇ったBritish Journal of General Practiceからの論文です。

(Primary Health Careの2018年のインパクトファクターランキングはこちら

Safety netting in routine primary care consultations: an observational study using video-recorded UK consultations

Br J Gen Pract. 2019 Nov 28;69(689):e878-e886. 

今回のテーマは”Safety Netting”です。

Safety Nettingとは?
著書「Inner consultation(内なる診療)」で有名なRoger Neighbor先生が提唱している概念です。

プライマリ・ケアのセッティングでは、診断がついていない状態(未分化な健康問題)で患者がやってきます。それに対して問診や診察を重ねて診断をつけるのですが、そこにはつねに不確実性(Uncertainty)がつきまといます。

重症な病気でも最初は危険な徴候(Red flag)が無いこともあり、”診断の見逃し”を100%避けることは困難です。

そこで、この不確実性から患者を守るSafety netを張ることが重要ということです。

Safety nettingを構成する3つの問いとして
1.私の判断が正しければ、今後どのような経過をたどるだろうか?
2.どうしたら私は自分の間違いに気づくことができるだろうか?
3.間違いに気づいた際には、どのようにしたらよいだろうか?

これらの3つの問いに基づいて患者に”Safety-Net advice”をすることが大事だと言われています。

例えば、風邪の患者なら
・風邪であれば、数日で解熱し、咳や鼻水は1週間くらいで改善してくるでしょう。
・もし5日以上熱が続く場合は、風邪ではない可能性が高くなるので再診してください。
・その場合は、レントゲンや血液検査をしましょう。
と言ったようなことを患者に伝えることが重要となります。

Safety nettingについて詳しくは「Inner consultation」を参照するか、下記の文献をご参照ください。
”Diagnostic safety-netting”  Br J Gen Pract. 2009 Nov 1; 59(568): 872–874.

■研究の目的
Safety Nettingが実際の診療の中でどのように行われているかを明らかにする。

■方法
GPの診療をビデオ/音声で録音したデータベース(One in a million study)のデータを用いて、Safety nettingが行われているフレーズを抜き出しコーディング。

主訴はICPC2でコーディング。

<解析方法>
Safety nettingが行われているかどうかを、ロジスティック回帰分析を施行。

患者およびGPの特性をmultilevel mixed-effects modelを利用して、調整したモデルも作成(Adjusted model)

■結果
12ヶ所の診療所で働く計23人のGPによ318回の診療が分析された。

Safety netting adviceは、205/318 (64.5%)で行われていた。
プロブレムごとに分析すると、257/555(46.3%) problemsであった。

Safety netting adviceがされなかった298のプロブレムのうち、211(70.%)はフォローアップ外来が予定されていた。

トータルでは、ほとんどのプロブレムでSafety netting adviceもしくはフォローアップ外来が予定されていた(468/555, 84.3%)

診断の不確実性は、46.1%(256/555)で説明されていた。
予想される経過は、22.9%(127/555 )でしか説明されていなかった。

Safety netting adviceの内容としては、52.8%が一般的な内容(具体的ではない)だった。
90%では自分の診療所へ再来するように伝えているが、77.7%の場合では具体的な再来の時期などは説明していなかった。

■結論
GPは多くの場合にSafety netting adviceを行っているが、具体的な症状や時期などの説明がされていることが少ないことがわかった。このSafety netting adviceの性質によるアウトカムの違いなどはさらなる研究が必要。

〜感想〜
実際の外来での会話を分析した研究というのが興味深く、このone in million studyのようなデータベースを日本でも作りたいですね。

Safety netting adviceは、新しいプロブレムが出てきた際に非常に重要なコンポーネントで今回は実際にどのように行われているかを調査した研究ですが、この効果などを検討する研究が今後期待されますね。

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