地域のファクターから心血管リスクを予測する

久しぶりのひとりJournal clubシリーズです!

本日の論文は、”Development and Validation of a County-Level Social Determinants of Health Risk Assessment Tool for Cardiovascular Disease”(The Annals of Family Medicine July 2020, 18 (4) 318-325)

一行サマリー

米国の群(市町村)ごとの心血管死亡率は、少数民族の割合、学歴、貧困率、生鮮食料品店の割合、ファーストフード店の割合、清涼飲料水の平均価格、プライマリ・ケア医の数から予測することできる。

背景・目的

心血管リスクの計算は様々な方法が用いられているが、臨床で用いているのは個人の要素(合併症、喫煙歴、家族歴、コレステロール、血圧など)を用いているものだ。(例、ASCVDリスクスコア
個人の生物学的要因だけでなく、貧困など健康の社会的決定要因(SDH)も心血管リスクとなりうるが、SDHを組み入れたリスク予測のツールはほとんどない。これらの社会的要因について、地域ごと(County)のSDHから地域の心血管死亡率を予測するスコアの開発を目指した。

方法

米国における地域ごとの心血管死亡率を目的変数として、SDHを説明変数とした予測式を作成した。データは、CDCなどの公表されているデータベースから地域ごとの情報を収集した。解析方法としては、ロジスティック回帰分析とポアソン回帰分析を用い、全地域の半数をランダムに抽出してメインの解析に用いた。残りの半数を用いて、バリデーションを行った。
SDHとして検討した要因は

1)社会経済的状況

  • 少数民族(非白人)の割合(nonwhite racial minority)
  • 学歴(高卒未満の人口の割合/大卒以上の割合)
  • 貧困レベル未満の世帯の割合
  • 世帯年収の中央値
  • 16歳以上の被雇用割合
  • 健康保険のカバー率

2)食生活環境

  • 生鮮食料品店
  • コンビニエンスストア
  • ファストフード店
  • レストラン(ファストフード以外)
  • フィットネス施設
  • 課税後の清涼飲料水の値段(after tax soda price)

3)医療リソース

人口あたりの
  • プライマリ・ケア医の数(Density of PCPs)
  • 専門医の数
  • コメディカルの数
  • 病院の数
  • その他医療福祉施設の数

結果

最終的なモデルに組み込まれたのは、
  • 少数民族(非白人)の割合(nonwhite racial minority)
  • 高卒未満の人口の割合
  • 貧困レベル未満の世帯の割合
  • 生鮮食料品店
  • ファストフード店
  • 清涼飲料水(ソーダ)の値段
  • プライマリ・ケア医の数
他の予測モデル(貧困率単独、CDC-SVIスコア、HM-CVDインデックス、AHRQ-SESインデックス)と比較しても精度が高かった(AUCが大きい)。

結論

今回選ばれた指標は、過去の研究で指摘されていた地域ごとの指標と心血管死亡の関連が示されたものと一致していた。
公表されているデータから地域の心血管死亡リスクが予測でき、介入すべき地域の課題を同定することが出来る。

感想・考察

このまま日本に導入することはできないが、地域の心血管死亡率の説明因子の差を説明しうる因子を明らかにしたということに意義がある。
日本においても学歴や生鮮食料品店、ファストフード店は影響している可能性がある。日本において清涼飲料水の値段にどこまで地域差があるのかは分からないが、非常に興味深い指標である。
また、医療システムの指標としてプライマリ・ケア医の数が最も影響しているということも我々総合診療医にとっては非常に勇気づけられる。
この研究を日本に応用するとしたら、指標を少し調整する必要があるが東京23区の格差だけでも明らかにできると面白いかもしれない。

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