HIV診療を普段していない人向けに
最近American Family PhysicianとNEJMにHIVの総説が載っていましたね。
普段HIV患者さんの診療をする機会はあまりないし自分で診断することもめったに無いので、恥ずかしながらあまり知識をアップデートしてませんでした。。。
先日外来の初診患者さんでHIVというかAIDSの診断をつけた方がいらっしゃったのもあり、自分にはタイムリーな総説だったので読んでみました。
スクリーニング検査や治療も進歩しているので、とても勉強になりました。
今回は普段HIV診療をするわけではないが・・・というプライマリ・ケア医向け(と言いつつ主には自分のため)に役立ちそうなところをまとめてみました。
最近の日本のHIV/AIDSの動向
日本の新規HIV/AIDSの報告数は、2013年頃をピークに最近は減少傾向ですが、1200名くらいの新規患者が報告され、累積で約3万人の患者さんがいます。
感染経路としては同性間での性的接触が最も多いですが、静注薬物使用もゼロではないので薬物使用に関しても聴取することが重要です。
都道府県別で見るとやはり東京・大阪、愛知、福岡などの大都市とその近郊が多いです。HIV感染者の82.1%, AIDS感染者の69.7%が国内感染でした。
HIVの検査について
今は第4世代の抗体+抗原検査が主流
今のHIVのスクリーニング検査は、HIV-1/2のIgM/IgG抗体とp24抗原を同時に検出しているそうです。
p24抗原は、感染後13日-20日頃に検出できるようでIgM抗体が上昇する前の早期発見を可能にしています。
つまり、第4世代の検査であれあば暴露後2週間くらいすれば検出できるようです。第3世代は20-30日前後だったので、だいぶ短くなりましたね。
それより早期に検出するためには、核酸増幅法(NAAT)が必要ですが日本でできる検査ではHIV-1しか検出できないようです。
性交渉歴を聴取して、リスクのある性交渉が2週間以内にある場合にはさらに2週間あけて再検査した方がよさそうですね。
WB法で確定が必要
HIVのスクリーニング検査(特に抗体検査)は感度は高いものの特異度が低いため、確定するためにはWestern Blot法の検査を行う必要があります。これはUSMLE(米国の医師国家試験)では頻出問題ですが、日本では知らない医師も多いです。。。
なのでスクリーニング検査が陽性の時点でもまだ偽陽性の可能性があるので、患者さんへの説明の際には注意してください。
誰にスクリーニングするか
USPSTFでは、15-65歳の全ての人と妊婦にスクリーニングが推奨されています。
リスクのある性交渉をしている人には定期的な検査もリスクに応じて推奨されていますが、明確な検査間隔にはエビデンスはないです。
スクリーニングだと自費になってしまうので、無料・匿名で検査できる保健所を紹介するのも手です。
こちらのサイトでは、HIVの検査・相談ができる施設が検索できます。
AIDS指標疾患
リスクのある人を見たときにHIVスクリーニングをすくるのも重要ですが、忘れては行けないのはAIDS指標疾患です。
これらの疾患を見たときにはAIDSを考えるのを忘れないようにしましょう。私が最近診断したケースも食思不振が主訴で食道カンジダがみつかり、そこからHIV/AIDSの診断に至りました。
AIDS指標疾患
真菌症 | カンジタ症(食道、気管、気管支、肺) クリプトコッカス症(肺以外) コクシジオイデス症 ヒストプラズマ症 ニューモシスチス肺炎 |
原虫感染症 | トキソプラズマ脳症(生後1ヶ月以後) クリプトスポリジウム症(1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの) イソスポラ症(1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの) |
細菌感染症 | 化膿性細菌感染症 サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く) 活動性結核(肺結核又は肺外結核) 非結核性抗酸菌症 |
ウイルス感染症 | サイトメガロウイルス感染症(生後1ヶ月以後で、肝、脾、リンパ節以外) 単純ヘルペスウイルス感染症 進行性多巣性白質脳症 |
腫瘍 | カポジ肉腫 原発性脳リンパ腫 非ホジキンリンパ腫(a. 大細胞型・免疫芽球型、b. Burkitt型) 浸潤性子宮頸癌 |
その他 | 反復性肺炎 リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex(13歳未満) HIV脳症(痴呆又は亜急性脳炎) HIV消耗性症候群(全身衰弱又はスリム病) |
治療の概要
自分で治療までしなくても治療の概略は、プライマリ・ケア医として知っていた方がいいと思います。
HIV感染が診断されたら早期にART(Anti-retroviral Therapy)を開始します。そのためにHIV感染が判明したら合併症の評価を行います。日和見感染症がある場合にはそちらの治療を優先します。
治療の詳細については割愛しますが、現在では1日1回1錠(配合剤)の内服で治療が可能です。
ARTの成功には、服薬アドヒアランスが重要です。また、HIV/AIDS患者は治療のドロップアウト、そしてさらに感染を増やすことが問題となっているので、貧困や精神疾患の合併など心理社会的側面のアセスメントとサポートを行うことが重要です。
詳しく勉強したい方には、抗HIV治療ガイドライン(2021年3月発行)を参照するといいと思います。
重要なキーワード「U=U」
「U=U」って聞いたことがありますか?
「U=U」は「Undetectable=Untransmittable」の略で、ウイルス量を検出感度未満まで抑えている人(Undetectable)は他人に感染させない(Untransmittable)ということです。
つまりARTをしっかり行いUndetectableを半年以上達成した人は、他の人に性行為を通じてHIV感染させることは一切ないということです。HIV/AIDSは治療をきちんと行えば性交渉も含めて普通の人と同じように生活できる病気になっているのです。
詳しくは、こちらのサイトも勉強になります。
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